【統計学Advent Calendar day23】 統計学周りで今年読んで良かった本
この記事は何?
この記事は「統計学 Advent Calendar 2022」23日目の記事です.
ここでは,統計学周りの話題に絞って「今年読んで良かった本」を独断と偏見でまとめていきたいと思います.それぞれについて「こんな人におすすめ」という項目を付与しましたので,当てはまる方は是非書籍をお手に取ってご覧いただけると嬉しいです.
今年読んで良かった本
入門 実験計画法
何が良かったか
数式がゴリゴリ出てくるものの,前提となる知識から丁寧に導入してくれているので,「実験計画法」という分野について全くの初学者であっても読み進めることができます.ただし,t検定・F検定などの検定論の入門的知識(統計検定2級レベルくらい?)があった方が読むのは楽です.「なぜ因子の分散と誤差分散との比を取ってF検定することで効果を検定できるのか」や「平方和の分解」など本質的なトピックについて誤魔化しなく丁寧に式を展開してくれるので,読後の納得感がかなり高くなると思います.
私の場合は,統計検定1級の統計応用(理工学)の対策の意味で一通り読むようにしました.試験本番で出題される問題はかなりトリッキーですし,この本自体には演習問題がついていないため,残念ながら試験合格請負書籍として太鼓判を押すのは難しいですが,それでも「乱塊法」「分割法(直交表を絡めたものを含む)」など発展的なトピックを親切に解説している書籍はこれを除いてなかなか存在しないのではないかなと思っています.
「東京大学工学教程」の本
も理工学対策としては有名ですが,上記のトピックについての解説が不足しているため,包括的に学ぶのであれば「入門 実験計画法」がベターかと個人的には感じました.
こんな人におすすめ
・理学・工学・化学など資源の限られた分野でなるべく少ない回数の実験から効果を測定したい方
・統計検定1級の統計応用(理工学)を目指しているが,体系的に実験計画法を学ぶのは初めてな方.ただし,試験問題が解けるようになるとは限らない.
・永田先生書籍シリーズお馴染みの平易な説明ファンの方.
ウェブ最適化ではじめる機械学習
何が良かったか
「ウェブ最適化,とりわけベイジアンA/Bテストはこうやるんですよ」をPythonコード付きで平易に解説してくれている神書籍です.私個人としては今年のMVPを授与したいと思うレベルです(書籍が出たのは2020年なので2年遅れですが).統計学(とりわけ確率分布)を全く勉強してこなかった人が読むとよく分からないかもしれませんが,その辺りの基礎的な知識さえあれば説明のわかりやすさに目から鱗が出るくらいだと思います.私はまだ6章の頭の方までしか読めていませんが,ここまでは大きく歩みを止めるような難解な箇所が全くなく,順調に読み進めることができました.
余談:表紙のウミウシが若干グロテスクで,人によっては敬遠してしまいそうになっているのが本当に本当に悔やまれます.ここまで見た目で損している書籍も珍しい.
こんな人におすすめ
・ベイジアンA/Bテストに興味があるけど,どの本で実践的に入門していいか分からない方
・統計の基本は学んだことあるけど,Webサービスなどの改善周りの実務でどうやって使えばいいか分からない方
・Pythonの初歩は分かっている(Numpyなどの基本演算やMatplotlibなどの可視化ライブラリを使ったことがある)方
・コードで実践的に身につけたい.でも数式の説明も多少はあり両面から理解したいという欲張りさん
A/Bテスト実践ガイド
何が良かったか
この本は有名なので今更説明は不要かもしれませんが,なんといっても「A/Bテスト」という分野の第一線で活躍し多数の論文も残した著者陣から直々に,活きたプラクティスを学ぶことができることが最大のポイントでしょう.実に23もの章にわたって細かい注意点を解説してくれます.一方で,各トピックについてはどうしても紙面が限られる影響か,ダイジェスト的な説明にとどまっている箇所も散見されました.特に,統計学が絡む第Ⅴ部は「この数式はどこから来た?」という疑問を持ったまま天下り的展開を認めながら読む必要があります(どうしても数式について深く納得したい方は別の専門書をあたりましょう).
個人的には,データアナリスト・データサイエンティストだけでなく,分析を専門としない人にこそ進んで読んで頂きたい(特に前半の章)と考えています.A/Bテストの重要性の説明はもちろん,指標(メトリクス)や意思決定のルールについて関係者間で合意を取っておく重要性についても言及されており,これらはプロダクトに関わる全ての人が知っておいて損しない話題だと思うからです.
こんな人におすすめ
・A/Bテストに関わる全ての方
・A/Bテストを間違いなく遂行するためのベストプラクティスを学びたい方
・A/Bテストの具体的な実装・ツールの話というよりも方法論を勉強したい方
・今まで業務で雰囲気でA/Bテストを回してきたが,本当に正しく効果を測定できていたのかイマイチ自信がない方
終わりに
この記事では,私が統計学周りで今年読んで良かった本についてまとめました.ほんの少しでも参考になる部分があれば幸甚です.最後までご高覧いただきありがとうございました.